山林所得は課税標準として独立している
居住者に対して課する所得税の課税標準は、総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額とする(所得税法第22条第1項)。
3つの課税標準が並んでいる。 山林所得金額は総所得金額に入らず、別に立つ。
ただし合計所得金額には足す(所得税法第2条第1項第30号イ(2))。基礎控除や配偶者控除の段の判定には効く。基礎控除を参照。
山林所得金額は、第32条の規定で計算した山林所得の金額である(所得税法第22条第3項)。損益通算(所得税法第69条)や繰越控除(同法第70条・第71条)の適用がある場合は、その適用後の金額である(同法第22条第3項)。
5年以内の伐採・譲渡は山林所得ではない
山林をその取得の日以後5年以内に伐採し又は譲渡することによる所得は、山林所得に含まれない(所得税法第32条第2項)。
植えた日ではなく取得の日である。 相続や贈与で取得した場合の起算は、所得税法第60条の取得費の引継ぎの考え方が関わる。
5年以内の所得は事業所得または雑所得になる。 総所得金額に入り(所得税法第22条第2項第1号)、5分5乗も特別控除も無い。この道具は、取得の日以後5年を超えているものを前提にしている(所得税法第32条第2項)。
3つの控除が順番に効く
| 段 | 何をするか | 条番号 |
|---|---|---|
| 1 | 総収入金額 − 必要経費 | 所得税法第32条第3項 |
| 2 | 残額 − 特別控除額(50万円) | 所得税法第32条第3項・第4項 |
| 3 | 課税山林所得金額を1,000円未満切捨て | 国税通則法第118条第1項 |
| 4 | 5分の1にして税率を当て、税額を5倍する | 所得税法第89条第1項 |
3段目の切り捨ては所得税法には無い。 国税通則法第118条第1項にある。
山林所得という語の定義は第1項にある(所得税法第32条第1項)。第3項が金額の計算を、第4項が特別控除額を定めている。
必要経費の範囲は、山林について別に書かれている
山林所得の金額は、総収入金額から必要経費を控除する(所得税法第32条第3項)。
山林につき植林費、取得に要した費用、管理費、伐採費その他その山林の育成又は譲渡に要した費用である(所得税法第37条第2項)。通常の必要経費(同条第1項)とは別に、山林所得について書かれている。
特別控除は50万円だが、残額が少ないときは残額まで
山林所得の特別控除額は50万円である。ただし残額が50万円に満たない場合には、当該残額とする(所得税法第32条第4項)。
残額が30万円なら特別控除も30万円で、山林所得の金額は0円になる。負にはならない(所得税法第32条第4項かっこ書き)。
一時所得(所得税法第34条第3項)・譲渡所得(同法第33条第4項)と同じ書き方である。 どれも50万円で、どれも「残額に満たない場合はその残額」と書く。
| 所得 | 特別控除 | 条番号 |
|---|---|---|
| 山林所得 | 50万円 | 所得税法第32条第4項 |
| 一時所得 | 50万円 | 所得税法第34条第3項 |
| 譲渡所得 | 50万円 | 所得税法第33条第4項 |
同じ額だが、条は3つに分かれている。
5分5乗は、所得ではなく税額を戻す
課税山林所得金額の5分の1に税率を掛け、その税額を5倍する(所得税法第89条第1項)。
所得を5分の1にしてから税率を掛けるので、超過累進の段が下がる。その税額を5倍して戻すため、同じ額を一度に得た場合より税額が小さくなる。
| 課税山林所得金額 | 5分の1 | 当たる段の上限 | 条番号 |
|---|---|---|---|
| 975万円 | 195万円 | 5%の段まで | 所得税法第89条第1項の表 |
| 1,650万円 | 330万円 | 10%の段まで | 同表 |
| 3,475万円 | 695万円 | 20%の段まで | 同表 |
| 5,000万円 | 1,000万円 | 33%の段まで | 同表 |
課税山林所得金額が975万円でも、当たるのは5%の段だけである(所得税法第89条第1項の表)。総所得金額として同じ額を計算すると33%の段まで届く(同表)。
山林は長い年月をかけて育てたものが一度に実現するため、この扱いになっている。
所得控除は3つの課税標準から順に引く
第87条第2項は「総所得金額、山林所得金額又は退職所得金額から順次控除する」と書いている(所得税法第87条第2項)。
総所得金額から引ききれなければ、山林所得金額から引く。 山林所得だけがある年でも所得控除は使える。
基礎控除を参照。
所得税の計算のどこに入るか
山林所得の金額は所得税法第21条第1項第1号の段で計算し、第2号の段で山林所得金額として立つ。所得控除は第3号の段で引き(所得税法第87条第2項)、税率は第4号の段で当てる(同法第89条第1項)。
森林計画特別控除と概算経費控除は、所得税法に無い
山林所得に係る森林計画特別控除は、租税特別措置法第30条の2にある。 所得税法第32条には無い。
概算経費控除も所得税法第32条には無い。 この道具は必要経費を入れてもらう形にしている。
この道具は所得税法第32条の特別控除50万円だけを引く。
分離課税との違い
山林所得は分離課税と呼ばれることがあるが、租税特別措置法による分離課税とは別である。
所得税法第22条第1項が課税標準として独立させている。 土地建物等の譲渡所得(租税特別措置法第31条・第32条)や株式等の譲渡所得(同法第37条の10)とは根拠が違う。
申告の単位と期限
山林所得の金額は、確定申告書に記載する(所得税法第120条第1項第1号)。総所得金額・退職所得金額と並べて書く。 課税標準が3つに分かれているためである(所得税法第22条第1項)。
確定申告書は、その年の翌年2月16日から3月15日までに提出する(所得税法第120条第1項)。山林所得だけがある場合も同じである。 課税標準が独立していても、申告の期限は変わらない。
よくある取り違え
1. 「所得を5分の1にして計算する」
5分の1にするのは税率を当てるときで、税額を5倍して戻す(所得税法第89条第1項)。所得そのものが5分の1になるわけではない。
2. 「特別控除は必ず50万円」
残額が50万円に満たなければ、その残額である(所得税法第32条第4項)。
3. 「山林所得も総所得金額に入る」
入らない(所得税法第22条第1項)。ただし合計所得金額には足す(同法第2条第1項第30号イ(2))。
4. 「所得控除は総所得金額からしか引けない」
山林所得金額からも引く(所得税法第87条第2項)。
5. 「取得してすぐ売っても山林所得」
5年以内は含まれない(所得税法第32条第2項)。
6. 「5年は植えた日から」
取得の日以後である(所得税法第32条第2項)。
7. 「概算経費控除が使える」
所得税法第32条には無い。 この道具は必要経費を入れてもらう形にしている。
よくある質問
課税山林所得金額とは
山林所得金額から所得控除を引いた残額である(所得税法第89条第2項)。
千円未満の切捨ては
国税通則法第118条第1項による。 所得税法第32条には端数の定めが無い。
立木を譲渡した場合も山林所得ですか
第1項は「山林の伐採又は譲渡による所得」と書いている(所得税法第32条第1項)。ただし土地とともに譲渡した場合の土地の部分は譲渡所得になる。
立木と土地を一緒に売ったら
土地の部分は譲渡所得になる(所得税法第33条第1項)。譲渡所得(総合課税)を参照。
相続した山林を売った場合は
取得の日は所得税法第60条の引継ぎによる。
事業所得との線引きは
取得の日以後5年以内かどうかが所得税法第32条第2項の線である。 それ以外の線引きは同条には書かれていない。
山林所得にも所得控除は引けますか
引ける。 所得税法第87条第2項が「総所得金額、山林所得金額又は退職所得金額から順次控除する」と書いている。総所得金額から引ききれなければ山林所得金額から引く。
損失が出た場合は
第3項の残額が負になれば山林所得の金額は0円である(所得税法第32条第3項・第4項)。純損失の繰越控除は所得税法第70条にある。純損失の繰越控除を参照。
復興特別所得税はかかりますか
かかる。 ただし所得税法には無く、復興財確法第13条にある。
この計算が扱っていないこと
- 森林計画特別控除(租税特別措置法第30条の2)。所得税法第32条には無い
- 概算経費控除。必要経費を利用者が入れる形にしている
- 山林所得に当たるかどうかの判定
- 取得の日の判定(所得税法第60条)
- 復興特別所得税(東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法第13条)