給与所得控除額の2分の1を「超える」部分だけ
その年中の特定支出の額の合計額が、給与所得控除額の2分の1に相当する金額を超えるとき、その超える部分の金額を控除する(所得税法第57条の2第1項)。
ちょうど2分の1では引けない。 条文は「超えるとき」と書いている。
平成24年分までは、給与所得控除額そのものが線だった。 現行は2分の1である(所得税法第57条の2第1項)。線が下がったぶん、使える場面が広がっている。
給与所得の金額そのものが変わる
第1項は「その年分の同項に規定する給与所得の金額は、同項及び同条第4項の規定にかかわらず、同条第2項の残額からその超える部分の金額を控除した金額とする」と書いている(所得税法第57条の2第1項)。
所得控除ではない。給与所得の金額の計算(所得税法第28条第2項)が変わる。 所得税法第21条第1項でいえば第1号の段である。基礎控除など(第3号の段)より前になる。
給与所得者だけの制度
第1項は「居住者が、各年において特定支出をした場合」と書いているが、効果は給与所得の金額に及ぶ(所得税法第57条の2第1項)。
事業所得や雑所得には及ばない。 それらは必要経費(所得税法第37条第1項)で処理する。
特定支出は7種類
| 支出 | 条番号 |
|---|---|
| 通勤のために必要な交通機関の利用等のための支出 | 所得税法第57条の2第2項第1号 |
| 勤務する場所を離れて職務を遂行するために直接必要な旅行の支出 | 所得税法第57条の2第2項第2号 |
| 転任に伴う転居のために通常必要と認められる支出 | 所得税法第57条の2第2項第3号 |
| 職務の遂行に直接必要な技術又は知識を習得するための支出 | 所得税法第57条の2第2項第4号 |
| 職務に直接必要な資格を取得するための支出 | 所得税法第57条の2第2項第5号 |
| 単身赴任者の帰宅のための旅行に通常要する支出 | 所得税法第57条の2第2項第6号 |
| 勤務必要経費(図書費・衣服費・交際費等) | 所得税法第57条の2第2項第7号 |
特定支出は年単位で合計する
第1項は「その年中の特定支出の額の合計額」と書いている(所得税法第57条の2第1項)。
7つの号の支出を合計して、給与所得控除額の2分の1と比べる。 号ごとに判定するのではない。
補塡される部分は特定支出にならない
第2項の柱書が、2つを除いている(所得税法第57条の2第2項)。
| 除かれるもの | 中身 |
|---|---|
| 給与等の支払者により補塡される部分 | かつ、その補塡される部分につき所得税が課されない場合 |
| 給付金が支給される部分 | 雇用保険法第10条第5項第1号の教育訓練給付金、母子及び父子並びに寡婦福祉法第31条第1号の母子家庭自立支援教育訓練給付金、母子及び父子並びに寡婦福祉法第31条の10で準用する父子家庭自立支援教育訓練給付金 |
会社が出した分は引けない。 さらに、その補塡が課税されている場合は除かれない(つまり引ける)。「かつ」で条件が重なっている。
証明が要る
第2項の各号が、それぞれ「給与等の支払者により証明がされたもの」を要件にしている(所得税法第57条の2第2項第1号〜第7号)。
7つの号すべてに証明の要件がある。 自分の判断だけでは引けない。
勤務必要経費には65万円の上限がある
第7号のかっこ書きに上限がある(所得税法第57条の2第2項第7号)。図書費・衣服費・交際費等の合計が65万円を超える場合、65万円までである。
他の号には上限が無い。 第7号だけである。この道具は上限の判定をしていない。
通勤費の範囲は政令で決まる
第1号は「一般の通勤者につき通常必要であると認められる部分として政令で定める支出」と書いている(所得税法第57条の2第2項第1号)。
経路と方法が「最も経済的かつ合理的である」ことについて、財務省令で定めるところにより給与等の支払者の証明が要る(同号)。
非課税の通勤手当(所得税法第9条第1項第5号)とは別の話である。 非課税の通勤手当は収入に入らないが、特定支出は支出の側である。
給与所得控除額との関係
線になるのは給与所得控除額の2分の1である(所得税法第57条の2第1項)。
給与所得控除額は所得税法第28条第3項または第4項で決まる。 給与等の収入金額が660万円未満なら別表第五が優先する(同条第4項)。給与所得控除を参照。
適用を受けるための手続
所得税法第57条の2第3項に、確定申告書への記載と証明書類の添付の定めがある。
第1項の計算だけでは適用されない。 手続の要件が別の項にある。
よくある取り違え
1. 「特定支出控除は所得控除」
給与所得の金額の計算が変わる(所得税法第57条の2第1項)。段が違う。
2. 「全額が引ける」
給与所得控除額の2分の1を超える部分だけである(所得税法第57条の2第1項)。
3. 「会社が出した分も入れられる」
補塡される部分は除かれる(所得税法第57条の2第2項柱書)。
4. 「自分で判断して引ける」
給与等の支払者の証明が要る(所得税法第57条の2第2項各号)。
5. 「7種類すべてに上限がある」
上限があるのは第7号だけである(所得税法第57条の2第2項第7号かっこ書き)。
よくある質問
確定申告が要りますか
所得税法第57条の2第3項に、確定申告書への記載と証明書類の添付の定めがある。 年末調整では処理されない。
資格取得費は何でも入りますか
「職務に直接必要な資格を取得するための支出」である(所得税法第57条の2第2項第5号)。
単身赴任の帰宅費用は
第6号にある(所得税法第57条の2第2項第6号)。
通勤手当をもらっていても使えますか
補塡される部分は除かれる(所得税法第57条の2第2項柱書)。手当で賄われた分は特定支出にならない。
給与が2か所ある場合は
第1項は「その年中の特定支出の額の合計額」と書いている(所得税法第57条の2第1項)。
住民税でも同じですか
地方税法は所得税法の計算の例による形をとっている。 給与所得の金額そのものが所得税法第57条の2で変わる。
この計算が扱っていないこと
- 勤務必要経費の65万円の上限(所得税法第57条の2第2項第7号かっこ書き)
- 給与等の支払者の証明(同項各号)
- 補塡される部分の判定(同項柱書)
- 給与所得控除額そのもの(所得税法第28条第3項・第4項)。給与所得控除で計算した額を入れる
数字をどう確かめたかは検算の方法にある。