社会保険料控除と小規模企業共済等掛金控除は、どちらも支払った金額の全額が控除される。割合を掛ける計算も、上限も、条文に無い。
| 控除 | 控除額 | 条番号 |
|---|---|---|
| 社会保険料控除 | 支払った金額または給与から控除される金額 | 所得税法第74条第1項 |
| 小規模企業共済等掛金控除 | 支払った金額 | 所得税法第75条第1項 |
このページに計算欄を置いていないのはそのためである。 分かれるのは金額ではなく、何が対象になるかである。
社会保険料は自分の分だけではない
所得税法第74条第1項は「自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族の負担すべき社会保険料を支払つた場合」と書いている。生計を一にする親族の分を支払った場合も、支払った本人の控除になる。
在勤手当に係るものは除かれる(所得税法第74条第2項かっこ書き・同法第9条第1項第7号)。
何が対象になるかは条文が号で並べている
上の一覧は、所得税法第74条第2項と第75条第2項の号をそのまま並べたものである。各号の末尾が「その他これらに準ずるもので政令で定めるもの」となっているとおり、政令にも定めがある(所得税法第74条第2項柱書)。
小規模企業共済等掛金は3つの号にまとまっている(所得税法第75条第2項第1号〜第3号)。小規模企業共済法第2条第2項に規定する共済契約に基づく掛金が第1号、確定拠出年金法の企業型年金加入者掛金または個人型年金加入者掛金が第2号である。所得税法第9条第1項第3号ハに規定する共済制度に係る契約に基づく掛金が第3号にあたる。
条文に書かれていないこと
国民年金保険料を前納した場合にどの年の控除にするか、年末調整で控除を受けるために証明書が要るかは、所得税法第74条にも第75条にも書かれていない。
これらは生命保険料控除や地震保険料控除と同じ所得控除であり、引いた残額に所得税の税率を掛ける(所得税法第89条第2項)。
2つの条が、同じ「全額を引く」形をしている
| 控除 | 何を引くか | 条番号 |
|---|---|---|
| 社会保険料控除 | その年に支払った、または給与から控除される社会保険料の全額 | 所得税法第74条第1項 |
| 小規模企業共済等掛金控除 | その年に支払った小規模企業共済等掛金の全額 | 所得税法第75条第1項 |
どちらも上限が無く、率も掛けない。 生命保険料控除(所得税法第76条)や地震保険料控除(同法第77条)が上限を持つのと対照的である。生命保険料控除・地震保険料控除を参照。
社会保険料の範囲は号立てで決まる
所得税法第74条第2項が、社会保険料を号で並べている。健康保険・国民健康保険・厚生年金保険・国民年金・介護保険・雇用保険などの保険料や掛金が、それぞれの根拠法とともに挙げられている。
自己だけでなく、生計を一にする配偶者その他の親族の負担すべき社会保険料を支払った場合も対象になる(所得税法第74条第1項)。子の国民年金保険料を親が払った場合、払った親の側で引ける。
国民年金の保険料そのものは国民年金の保険料と老齢基礎年金、厚生年金と健康保険の保険料は社会保険料(厚生年金・健康保険)にある。
小規模企業共済等掛金の範囲は3つの号
所得税法第75条第2項が3つの号で定めている。
| 号 | 中身 |
|---|---|
| 第1号 | 小規模企業共済法第2条第2項に規定する共済契約に基づく掛金(政令で定めるものを除く) |
| 第2号 | 確定拠出年金法第3条第3項第7号の2に規定する企業型年金加入者掛金、または確定拠出年金法第55条第2項第4号に規定する個人型年金加入者掛金 |
| 第3号 | 所得税法第9条第1項第3号ハに規定する政令で定める共済制度に係る契約に基づく掛金(心身障害者扶養共済) |
個人型確定拠出年金(iDeCo)の掛金は第2号に当たる。 条文は「個人型年金加入者掛金」と書いており、通称は出てこない。
掛金の上限は、それぞれの制度の法令にある
所得税法第75条には上限が無い。 ただし、それぞれの制度の側に拠出できる上限がある。
| 制度 | 上限の根拠 |
|---|---|
| 小規模企業共済 | 小規模企業共済法 |
| 確定拠出年金 | 確定拠出年金法および同法施行令 |
この道具は、所得税法第75条が定める「支払った全額を引く」という部分だけを出す。 制度ごとの拠出限度額の判定はしていない。
住民税の側も全額控除
住民税の社会保険料控除は、支払った額をそのまま引く(地方税法第314条の2第1項第3号)。同号は「その支払つた、又は給与から控除される金額」とだけ書いている。所得税と同じく上限が無い。
小規模企業共済等掛金控除は同項第4号にある。道府県民税は同法第34条第1項の対応する号である。
端数の扱い
所得税法第74条・第75条は端数について何も書いていない。 支払った額をそのまま引く。
よくある取り違え
1. 「社会保険料控除にも上限がある」
無い(所得税法第74条第1項)。支払った全額を引く。
2. 「家族の社会保険料は引けない」
引ける。 第1項は「自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族の負担すべき社会保険料を支払つた場合」と書いている(所得税法第74条第1項)。
3. 「iDeCoは生命保険料控除」
小規模企業共済等掛金控除である(所得税法第75条第2項第2号)。生命保険料控除は同法第76条で、別の条である。
4. 「国民年金基金は対象外」
社会保険料の範囲は所得税法第74条第2項の号で決まる。 どの号に当たるかを条文で確かめること。
5. 「掛金の上限は所得税法にある」
無い(所得税法第75条)。上限はそれぞれの制度の法令にある。
よくある質問
前納した保険料はどうなりますか
所得税法第74条第1項は「その年において支払つた」と書いている。 前納した場合の按分について、同条には書かれていない。
給与から引かれた分も対象ですか
対象である。 第1項が「支払つた、又は給与から控除される」と書いている(所得税法第74条第1項)。
証明書は要りますか
所得税法第74条・第75条には証明書の要否が書かれていない。 年末調整の手続は同法第190条にある。
滞納していた分をまとめて払った場合は
支払った年に引く(所得税法第74条第1項「その年において支払つた」)。
会社が負担した分も引けますか
引けない。 第1項は「自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族の負担すべき社会保険料を支払つた場合」と書いている(所得税法第74条第1項)。条文は、負担する者と支払った者の2つを並べている。
心身障害者扶養共済の掛金は
小規模企業共済等掛金控除の対象である(所得税法第75条第2項第3号)。
所得税の計算のどこに入るか
どちらも所得控除である。所得税法第21条第1項第3号の段で、税率を当てる前の所得から引く。
所得控除どうしの順序は、雑損控除だけが先と決まっている(所得税法第87条第1項)。同項は社会保険料控除と小規模企業共済等掛金控除を名指しで挙げている。引く先は総所得金額・山林所得金額・退職所得金額の順である(同条第2項)。
支払った年で引く
所得税法第74条第1項は「その年において支払つた」と書いている。
小規模企業共済等掛金控除も同じである(所得税法第75条第1項)。「各年において……支払つた場合には」と書いている。
未払いの分は引けない。 実際に支払った年の控除になる。
2つの控除は別の条だが、並んでいる
所得税法は第74条に社会保険料控除、第75条に小規模企業共済等掛金控除を置いている。
どちらも「支払つた金額」を全額引く形で、上限も率も無い。 隣り合う条が同じ形をしている。
証明書の添付
社会保険料控除のうち一定のものは、確定申告書に証明書を添付しなければならない(所得税法第120条第3項第2号)。
この定めは第74条ではなく第120条にある。 控除の条と手続の条が分かれている。
掛金の証明
小規模企業共済等掛金控除も、確定申告書への証明書の添付が要る(所得税法第120条第3項第2号)。
社会保険料控除と同じ条に並んでいる。
社会保険料の号立て
所得税法第74条第2項が、社会保険料を号で並べている。
健康保険法・国民健康保険法・厚生年金保険法・国民年金法・介護保険法・雇用保険法などの保険料や掛金が、それぞれの根拠法とともに挙げられている。
給与から控除される場合
第1項は「支払つた、又は給与から控除される」と書いている(所得税法第74条第1項)。
天引きされた分も控除の対象である。 自分で払ったものに限られない。
この計算が扱っていないこと
- 社会保険料に当たるかどうかの判定(所得税法第74条第2項)
- 小規模企業共済等掛金に当たるかどうかの判定(所得税法第75条第2項)
- 制度ごとの拠出限度額。所得税法第75条には無い
- 前納した場合の扱いと、年末調整で控除を受けるための証明書の要否
- 住民税の社会保険料控除(地方税法第314条の2第1項第3号)