雑損控除は、災害・盗難・横領によって資産に損失が生じた場合に、一定額を超える部分を総所得金額などから引く制度である(所得税法第72条第1項)。
差し引く額は、3つの号のどれかで決まる
所得税法第72条第1項は、災害関連支出の金額がいくらかで3つに分かれる。
| 号 | どんな場合 | 差し引く額 | 条番号 |
|---|---|---|---|
| 第1号 | 災害関連支出が5万円以下(無い場合を含む) | 総所得金額等の10分の1 | 所得税法第72条第1項第1号 |
| 第2号 | 災害関連支出が5万円を超える | 「損失の合計額 − (災害関連支出のうち5万円を超える部分)」と第1号の額のいずれか低い金額 | 所得税法第72条第1項第2号 |
| 第3号 | 損失の金額がすべて災害関連支出 | 5万円と第1号の額のいずれか低い金額 | 所得税法第72条第1項第3号 |
上の計算はどの号で計算したかを出している。 号によって差し引く額の出し方がまったく違う。
第2号は2つの金額を比べる
第2号は「その年における損失の金額の合計額から災害関連支出の金額のうち五万円を超える部分の金額を控除した金額と前号に掲げる金額とのいずれか低い金額」と書いている(所得税法第72条第1項第2号)。
総所得金額等が大きいときは10分の1のほうが大きくなり、もう一方が使われる。たとえば損失100万円・災害関連支出90万円・総所得金額等2,000万円の場合を見る。10分の1は200万円、もう一方は100万円−(90万円−5万円)=15万円である。低いほうの15万円が差し引く金額になる(所得税法第72条第1項第2号)。
災害関連支出とは何か
損失の金額のうち、災害に直接関連して支出をした金額として政令で定める金額である(所得税法第72条第1項第1号かっこ書き)。
「政令で定める金額」で閉じている。 具体的な範囲は所得税法施行令第206条にあり、所得税法の本文には書かれていない。この道具は判定をしていない。金額を入れてもらう形にしている。
損失の原因は3つに限られる
第1項は「災害又は盗難若しくは横領による損失」と書いている(所得税法第72条第1項)。詐欺と恐喝はここに入っていない。 条文が3つを並べており、その他を含む書き方をしていない。
その災害・盗難・横領に関連して政令で定めるやむを得ない支出をした場合は、これを含む(所得税法第72条第1項)。
「災害」は震災、風水害、火災その他政令で定める災害をいう(所得税法第2条第1項第27号)。政令で定める災害の範囲は所得税法施行令第9条にある。
補てんされる部分は差し引く
第1項は「保険金、損害賠償金その他これらに類するものにより補てんされる部分の金額を除く」と書いている(所得税法第72条第1項かっこ書き)。
対象になる資産と、除かれる資産
第1項は、居住者または生計を一にする配偶者その他の親族で政令で定めるものの有する資産を対象にしている(所得税法第72条第1項)。すべての親族ではない。 範囲は所得税法施行令第205条にある。
ただし2つが除かれる(所得税法第72条第1項かっこ書き)。
| 除かれる資産 | 条番号 |
|---|---|
| 生活に通常必要でない資産 | 所得税法第62条第1項 |
| 被災事業用資産 | 所得税法第70条第3項 |
別荘、競走馬、書画骨とうなどの「生活に通常必要でない資産」は雑損控除の対象外である(所得税法第72条第1項・同法第62条第1項)。これらは所得税法施行令第178条第1項に挙げられている。被災事業用資産の損失は、雑損控除ではなく純損失の繰越控除の側(所得税法第70条第2項第2号)で扱われる。
引ききれない分は、雑損失として3年繰り越せる
雑損控除の額がその年の所得を超える場合、超える部分は雑損失の金額になる(所得税法第2条第1項第26号)。
その額は翌年以後3年内の各年に繰り越す(所得税法第71条第1項)。この定めは第72条ではなく第71条にある。 雑損控除(第72条)と雑損失の繰越控除(第71条)は別の条である。
所得控除のうち、雑損控除だけが必ず先に行われるのはこのためである(所得税法第87条第1項)。先に引かないと繰り越す額が変わる。
この道具は繰越しそのものを計算していない。 純損失の側は純損失の繰越控除にある。
損失の金額の計算は政令にある
前項に規定する損失の金額の計算に関し必要な事項は、政令で定める(所得税法第72条第2項)。
時価か取得費かといった計算方法は、所得税法第72条には書かれていない。
災害減免法は別の法律にある
災害によって住宅や家財に損害を受けた場合に所得税を軽減または免除する制度は、所得税法第72条ではなく災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律にある。両者は選択の関係にある。このページは所得税法第72条だけを計算している。
住民税の雑損控除は同じ算式
住民税の側も同じ3つの号で、5万円と10分の1の数字も同じである(地方税法第314条の2第1項第1号イ〜ハ)。ただし条は別で、市町村民税は同号、道府県民税は同法第34条第1項第1号にある。
端数の扱い
所得税法第72条第1項は端数について何も書いていない。
よくある取り違え
1. 「差し引くのは常に総所得金額等の10分の1」
災害関連支出が5万円を超えると、第2号または第3号で計算する(所得税法第72条第1項第2号・第3号)。どちらも「いずれか低い金額」なので、10分の1より小さくなることがある。
2. 「詐欺の被害も雑損控除の対象」
第1項は「災害又は盗難若しくは横領」と書いている(所得税法第72条第1項)。詐欺はこの3つに入っていない。
3. 「別荘の被害も控除できる」
生活に通常必要でない資産は除かれる(所得税法第72条第1項・同法第62条第1項)。
4. 「事業用資産の損失も雑損控除」
被災事業用資産は除かれる(所得税法第72条第1項・同法第70条第3項)。そちらは純損失の繰越控除の側にある(同法第70条第2項第2号)。
5. 「災害減免法と両方使える」
災害減免法による所得税の軽減免除は別の法律にある。 所得税法第72条には書かれていない。
よくある質問
総所得金額等とは何ですか
総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額である(所得税法第72条第1項第1号)。
家族の資産の損失も対象ですか
生計を一にする配偶者その他の親族で政令で定めるものの有する資産が対象である(所得税法第72条第1項)。所得の要件は所得税法施行令第205条にある。
損失の金額はどう計算しますか
第2項は「前項に規定する損失の金額の計算に関し必要な事項は、政令で定める」と書いている(所得税法第72条第2項)。計算方法そのものは所得税法には無い。
盗難の証明は要りますか
所得税法第72条には証明の要件が書かれていない。
何年まで繰り越せますか
翌年以後3年内である(所得税法第71条第1項)。純損失と同じ年数だが、条は別である。
医療費控除より先に引きますか
引く。 所得税法第87条第1項が、雑損控除を必ず先に行うと定めている。医療費控除を参照。
所得税の計算のどこに入るか
雑損控除は所得控除である。所得税法第21条第1項第3号の段で、税率を当てる前の所得から引く。
所得控除のうち、雑損控除だけが順序を決められている(所得税法第87条第1項)。同項は「まず雑損控除を行うものとする」と書いている。引く先は総所得金額・山林所得金額・退職所得金額の順である(同条第2項)。
この計算が扱っていないこと
- 災害関連支出に当たるかどうかの判定(所得税法施行令第206条)
- 損失の金額の計算(所得税法第72条第2項の政令)
- 雑損失の繰越控除(所得税法第71条)
- 対象になる親族の範囲の判定(所得税法施行令第205条)
- 災害減免法による所得税の軽減免除。別の法律にある
- 住民税の雑損控除(地方税法第314条の2第1項第1号)