退職所得の金額は、退職手当等の収入金額から退職所得控除額を引いた残額の2分の1に相当する金額である(所得税法第30条第2項)。ただし短期退職手当等と特定役員退職手当等については、2分の1にしない部分がある(同項)。
退職所得控除額は勤続年数で決まる
| 勤続年数 | 退職所得控除額 | 条番号 |
|---|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × 勤続年数 | 所得税法第30条第3項第1号 |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年) | 同項第2号 |
勤続年数に1年未満の端数が生じたときは、これを1年とする(所得税法施行令第69条第2項)。
80万円に満たないときは80万円になる
第3項の計算で出した金額が80万円に満たない場合は80万円とする(所得税法第30条第6項第2号)。勤続1年なら40万円×1年=40万円だが、80万円になる。勤続2年は40万円×2年=80万円なので、この定めは効かない。
障害者になったことに直接基因して退職したと認められる場合で政令で定める場合は、上の金額に100万円を加算する(所得税法第30条第6項第3号)。80万円に満たない場合は80万円としたうえで加算する(同号)。
前年以前に他の退職手当等の支払を受けている場合は、控除額を調整する(所得税法第30条第6項第1号)。このページはその調整を含んでいない。
2分の1にするかどうかは3つに分かれる
| 区分 | 退職所得の金額 | 条番号 |
|---|---|---|
| 一般の退職手当等 | (収入金額 − 控除額)× 2分の1 | 所得税法第30条第2項 |
| 特定役員退職手当等 | 収入金額 − 控除額(2分の1にしない) | 同項かっこ書き |
| 短期退職手当等で残額300万円以下 | 残額 × 2分の1 | 同項第1号 |
| 短期退職手当等で残額300万円超 | 150万円 +(残額 − 300万円) | 同項第2号 |
特定役員退職手当等とは、法人税法上の役員、国会議員・地方議会議員、国家公務員・地方公務員としての勤続年数が5年以下である者が、その年数に対応して受ける退職手当等をいう(所得税法第30条第5項)。
短期退職手当等とは、役員等以外の者としての勤続年数が5年以下であるものに対応する退職手当等で、特定役員退職手当等に当たらないものをいう(所得税法第30条第4項)。
退職所得は他の所得と分けて計算する
所得税額は課税総所得金額と課税退職所得金額をそれぞれ区分して計算する(所得税法第89条第1項)。税率の段の区分は同じ表を使う(所得税の税率)。
3つの区分で、2分の1の扱いが違う
所得税法第30条第2項が、1つの文の中で3通りを書き分けている。
| 区分 | 退職所得の金額 | 条番号 |
|---|---|---|
| 一般 | (収入金額 − 退職所得控除額)× 2分の1 | 所得税法第30条第2項 |
| 短期退職手当等 | 残額300万円以下の部分は2分の1、超える部分は2分の1にしない | 所得税法第30条第2項第1号・第2号 |
| 特定役員退職手当等 | (収入金額 − 退職所得控除額)。2分の1にしない | 所得税法第30条第2項かっこ書き |
特定役員は2分の1が一切ない(所得税法第30条第2項かっこ書き)。短期は300万円までだけ2分の1が効く(同項第1号・第2号)。この違いが条文の1つの文の中に、かっこ書きと号で書き分けられている。
短期退職手当等の計算は2つの号
| 号 | どんな場合 | 金額 | 条番号 |
|---|---|---|---|
| 第1号 | 残額が300万円以下 | 残額の2分の1 | 所得税法第30条第2項第1号 |
| 第2号 | 第1号以外 | 150万円 + (収入金額 − (300万円 + 退職所得控除額)) | 同項第2号 |
第2号の150万円は、300万円の2分の1である(所得税法第30条第2項第2号)。300万円までの部分の2分の1をそのまま定額で置いている(同項第1号)。
短期と特定役員の線は、どちらも勤続5年
| 区分 | 誰か | 年数 | 条番号 |
|---|---|---|---|
| 短期退職手当等 | 役員等以外の者 | 勤続年数5年以下 | 所得税法第30条第4項 |
| 特定役員退職手当等 | 役員等 | 役員等勤続年数5年以下 | 所得税法第30条第5項 |
役員等は3つある(所得税法第30条第5項第1号〜第3号)。法人税法第2条第15号に規定する役員、国会議員および地方公共団体の議会の議員、国家公務員および地方公務員である。
短期退職手当等は「特定役員退職手当等に該当しないもの」に限られる(所得税法第30条第4項)。役員なら特定役員のほうが先に当たる。
退職所得控除額は2段
| 勤続年数 | 退職所得控除額 | 条番号 |
|---|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × 勤続年数 | 所得税法第30条第3項第1号 |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 × (勤続年数 − 20年) | 同項第2号 |
800万円は、40万円 × 20年である(所得税法第30条第3項第1号・第2号)。20年までの分を定額で置いている。
第6項に3つの例外がある
第3項で計算した額が、第6項によって置き換わる場合がある(所得税法第30条第6項)。
| 号 | どんな場合 | どうなる | 条番号 |
|---|---|---|---|
| 第1号 | 前年以前に他の退職手当等の支払を受けている場合で政令で定める場合 | 第3項の額から、その分を政令の定めにより控除した額 | 所得税法第30条第6項第1号 |
| 第2号 | 第3項および第1号で計算した額が80万円に満たない場合 | 80万円 | 所得税法第30条第6項第2号 |
| 第3号 | 障害者になったことに直接基因して退職したと認められる場合で政令で定める場合 | 第3項・第1号の額(80万円に満たなければ80万円)に100万円を加算した額 | 所得税法第30条第6項第3号 |
最低80万円は第2号、障害退職の100万円加算は第3号である(所得税法第30条第6項第2号・第3号)。どちらも第3項ではなく第6項にある。
勤続年数は政令で定める
第3項第1号は「政令で定める勤続年数」と書いている(所得税法第30条第3項第1号)。数え方そのものは所得税法施行令第69条にあり、所得税法の本文には無い。
住民税は別の条で、率も2つ
退職所得に係る住民税は、他の所得と分けて課税する(地方税法第50条の2)。課税標準は所得税法第30条第2項の計算の例による(地方税法第50条の3第2項)。率は道府県民税100分の4(地方税法第50条の4)と市町村民税100分の6(地方税法第328条の3)である。
退職金にかかる住民税を参照。
よくある取り違え
1. 「退職金は必ず2分の1になる」
特定役員退職手当等は2分の1にしない(所得税法第30条第2項かっこ書き)。短期退職手当等も300万円を超える部分は2分の1にしない(同項第2号)。
2. 「最低80万円は第3項に書いてある」
第6項第2号である(所得税法第30条第6項第2号)。
3. 「障害退職の100万円加算は控除額の計算式に入っている」
第6項第3号である(所得税法第30条第6項第3号)。第3項の算式とは別の段にある。
4. 「勤続5年以下なら誰でも短期退職手当等」
役員等は特定役員退職手当等になる(所得税法第30条第5項)。短期退職手当等は「特定役員退職手当等に該当しないもの」に限られる(同条第4項)。
5. 「800万円は特別な数字」
40万円 × 20年である(所得税法第30条第3項第1号・第2号)。20年までの分をまとめて置いたものである。
よくある質問
勤続年数に1年未満の端数があるときは
所得税法第30条第3項第1号は「政令で定める勤続年数」と書いている。 数え方は所得税法施行令第69条にある。
同じ年に2か所から退職金を受けた場合は
第7項が、勤続期間に重複がある場合の計算を政令に委ねている(所得税法第30条第7項)。
退職所得の申告書を出さないとどうなりますか
源泉徴収の段階で20.42%になる(所得税法第201条第3項)。退職金から引かれる所得税を参照。
退職所得も総所得金額に入りますか
入らない。 課税標準は総所得金額・退職所得金額・山林所得金額の3つに分かれている(所得税法第22条第1項)。ただし基礎控除などの段を決める合計所得金額には退職所得金額も足す(所得税法第2条第1項第30号イ(2))。
税率はどう当てますか
課税退職所得金額に、所得税法第89条第1項の表をそのまま当てる。 山林所得のような5分5乗はしない。所得税の税率と税額を参照。
会社が負担する社会保険料は退職所得に入りますか
所得税法第30条第1項は「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与」と書いている。
退職手当等とは何か
退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与に係る所得である(所得税法第30条第1項)。
「退職により一時に受ける」ことが要件である。 年金の形で受け取るものは公的年金等の雑所得になる(所得税法第35条第3項)。公的年金等控除を参照。
課税標準として独立している
課税標準は、総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額とする(所得税法第22条第1項)。
退職所得金額は総所得金額に入らない。 税率は所得税法第89条第1項の表をそのまま当てる。山林所得のような5分5乗はしない。
申告の要否
退職所得は、源泉徴収だけで課税関係が終わる場合がある(所得税法第121条第2項)。
退職所得の受給に関する申告書を提出していれば、原則として確定申告は要らない。
この計算が扱っていないこと
- 勤続年数の数え方(所得税法施行令第69条)
- 前年以前の退職手当等がある場合の調整(所得税法第30条第6項第1号の政令)
- 勤続期間が重複する場合の計算(所得税法第30条第7項の政令)
- 住民税(地方税法第50条の2以下)。別の道具にしている