これは退職所得に係る源泉徴収である(所得税法第4編第3章)。退職手当等を支払う者は、その支払の際に所得税を徴収して納付しなければならない(所得税法第199条)。徴収する税額は、退職所得の受給に関する申告書を提出しているかどうかで大きく変わる。
申告書を出したかどうかで、条が変わる
| 場合 | 何をするか | 条番号 |
|---|---|---|
| 申告書を提出した(他の退職手当等なし) | 課税退職所得金額とみなして第89条第1項の税率を適用 | 所得税法第201条第1項第1号 |
| 申告書を提出した(支払済みの他の退職手当等あり) | 合算して計算し、既に徴収された分を引く | 同項第2号 |
| 申告書を提出していない | 支払金額に100分の20 | 所得税法第201条第3項 |
申告書を出していないと、退職所得控除も2分の1も使えない。 退職金の全額に率が掛かる(所得税法第201条第3項)。
20.42%の内訳
所得税法第201条第3項は「100分の20」と書いている。
20.42%は、20%に復興特別所得税の2.1%を上乗せしたものである(東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法第28条第1項)。
所得税法だけを読むと20%である(所得税法第201条第3項)。
3つの区分が、ここでも効く
第1号は、退職手当等の種類ごとにイ・ロ・ハに分かれている(所得税法第201条第1項第1号)。次の金額を課税退職所得金額とみなして、所得税法第89条第1項の税率を当てる。
| 枝 | 種類 | 課税退職所得金額とみなす額 | 条番号 |
|---|---|---|---|
| イ | 一般退職手当等 | (支払額 − 退職所得控除額)× 2分の1 | 所得税法第201条第1項第1号イ |
| ロ | 短期退職手当等(残額300万円以下) | 残額 × 2分の1 | 同号ロ(1) |
| ロ | 短期退職手当等(残額300万円超) | 150万円 +(退職手当等 − 300万円 − 退職所得控除額) | 同号ロ(2) |
| ハ | 特定役員退職手当等 | 支払額 − 退職所得控除額(2分の1にしない) | 同号ハ |
所得税法第30条第2項と同じ構造である。 源泉徴収の側でも同じ書き分けをしている。退職所得と退職所得控除を参照。
種類の定義は第30条を引いている。 一般退職手当等は第30条第7項、短期退職手当等は同条第4項、特定役員退職手当等は同条第5項である(所得税法第201条第1項第1号イ〜ハ)。
千円未満を切り捨てる
各枝のかっこ書きが「当該金額に千円未満の端数があるとき、又は当該金額の全額が千円未満であるときは、その端数金額又はその全額を切り捨てた金額」と書いている(所得税法第201条第1項第1号イ〜ハ)。
全額が千円未満なら全額を切り捨てる。 端数だけの話ではない。
退職所得控除額は別表第六による
第201条の退職所得控除額は、勤続年数と障害退職に当たるかどうかに応じ、別表第六に掲げる額による(所得税法第201条第2項)。
別表第六は勤続年数ごとの表になっている。この表の額は、所得税法第30条第3項の算式と一致する。
| 勤続年数 | 一般退職 | 障害退職 | 条番号 |
|---|---|---|---|
| 2年以下 | 80万円 | 180万円 | 所得税法別表第六 |
| 3年 | 120万円 | 220万円 | 同表 |
| 20年 | 800万円 | 900万円 | 同表 |
| 21年 | 870万円 | 970万円 | 同表 |
| 40年 | 2,200万円 | 2,300万円 | 同表 |
| 41年以上 | 2,200万円に、40年を超える1年ごとに70万円を加算 | 2,300万円に同じく加算 | 同表 |
障害退職の額は、一般退職の額に100万円を足したものになっている。 けんざんは別表第六の39年ぶんすべてを、退職所得で使っている第30条第3項の算式と突き合わせている(検算の方法)。
復興特別所得税は別に足す
第89条の税率で出るのは所得税である。これに2.1%を足し(復興財確法第28条第2項)、合計額の1円未満を切り捨てる(同法第31条第2項)。
支払済みの他の退職手当等がある場合
第2号は、その年に既に支払われた他の退職手当等と合算して計算し、そこから既に徴収された税額を引く(所得税法第201条第1項第2号)。
この道具は第1号(他の退職手当等なし)を扱っている。
申告書の提出先と時期
退職所得の受給に関する申告書は、退職手当等の支払者を経由して提出する(所得税法第203条第1項)。支払を受ける時までに提出する。
住民税は別に特別徴収される
退職所得に係る住民税は、支払の際に特別徴収される。 道府県民税は地方税法第50条の2以下、市町村民税は地方税法第328条以下にある。退職金にかかる住民税を参照。
よくある取り違え
1. 「申告書を出さなくても退職所得控除は使える」
使えない(所得税法第201条第3項)。支払金額に20.42%である。
2. 「20.42%は所得税法に書いてある」
所得税法第201条第3項は100分の20である。 2.1%の上乗せは復興財確法第28条第1項による。
3. 「端数だけを切り捨てる」
全額が千円未満なら全額を切り捨てる(所得税法第201条第1項第1号イ)。
4. 「源泉徴収されたら確定申告は不要」
所得税法第121条第2項に申告不要の定めがあるが、要件がある。
5. 「役員でも2分の1になる」
特定役員退職手当等は2分の1にしない(所得税法第201条第1項第1号ハ・同法第30条第5項)。
よくある質問
退職所得控除額はどう計算しますか
所得税法第30条第3項による。 勤続20年以下は40万円×年数、20年超は800万円+70万円×(年数−20年)である。
勤続年数に端数がある場合は
所得税法施行令第69条による。
障害退職の場合は
退職所得控除額に100万円を加算する(所得税法第30条第6項第3号)。
同じ年に2か所から受けた場合は
所得税法第201条第1項第2号による。
死亡退職の場合は
相続税の対象になる場合がある(相続税法第3条第1項第2号)。所得税の源泉徴収とは別である。
確定申告で還付されますか
源泉徴収された税額は所得税額から引く(所得税法第120条第1項第5号)。
この計算が扱っていないこと
- 支払済みの他の退職手当等がある場合(所得税法第201条第1項第2号)
- 勤続年数の数え方(所得税法施行令第69条)
- 住民税の特別徴収(地方税法第50条の5・第328条の5)
- 申告書の記載事項(所得税法第203条第1項)